B2Bでも「ブランド力」が決め手に?意思決定に影響する見えない力とは

末永 恵

B2Bでも「ブランド力」が決め手に?意思決定に影響する見えない力とは

根強い“B2Bブランディング不要論”

多くのB2B企業、とくに長い歴史を持つレガシー企業においては、「広告やPRはB2C企業が行うものであり、B2Bには必要ない」という考え方が未だに根強く残っています。このような認識は、展示会や営業活動を中心とした従来型の営業モデルに多くのリソースが集中している企業、または既存顧客との取引で事業が成り立っている企業、あるいはABM(アカウントベースドマーケティング)やインテントデータを活用したデータ主導型マーケティングを行う企業で特に見られます。現状の顧客基盤が収益の大部分を担っている場合、「今さらブランディングなんて」と感じるのは自然かもしれません。

しかし、新規顧客の獲得なくしてビジネスの持続的な成長はありません。特にアメリカ市場のように広く、意思決定のスピードと情報量が求められる環境では、従来の営業手法だけでカバーできる範囲には限界があるのが現実で、リード獲得の主戦場はWebとマーケティングに移っています。B2Bバイヤーの70%が企業に問い合わせする前にオンラインで情報収集を行う昨今。アメリカでは多くのB2B企業が新規の獲得のため、ブランドマーケティングを重要視し始めています。なぜなのでしょうか?

 

「ブランドの信頼」が意思決定に与える影響

新しい取引先を検討する際、プロジェクト担当者は「失敗したくない」という心理を持っています。企業間取引では一度の選定ミスが、数ヶ月~数年にわたる損失につながることもあるため、担当者には意思決定に際し大きな責任が伴います。誰だって、地雷は踏みたくないものです。

そんなとき、人は心理的に「無難な選択肢」を選ぼうとします。たとえばあなたが企業のIT担当だったとして、「IBMを選んでおけば安心」と思うのは、ブランドが信頼を補完しているからです。仮にプロジェクトがうまくいかなくても、「IBMで失敗したのだから仕方ない」で済まされる話であり、「誰だIBMなんて選んだのは」という責任論にはならないでしょう。これはまさにブランド力がもたらす“保険”のような役割で、知名度がバイヤージャーニーの初期段階で無意識の安心感を与え、競合よりも優位に立てることを示す1つの例です。

LinkedInの調査によれば、B2Bの購買意思決定には平均6〜10人の関係者が関与していると報告されています。同レポートでは加えて、「知られていること」そのものが企業の信用を補強し、ベンダー選定過程におけるリスク回避の判断材料になると指摘しています。つまり、ブランドの認知度と信頼性は、リード獲得以前に競争優位を形成する要素であると言えます。B2Bのブランディングは、「知っている安心感」と「選んでも批判されない立場」を提供する、“目に見えない後押し”なのです。

 

B2B購買プロセスに存在する“見えにくい”意思決定者たち

B2Bマーケティングにおいて、意思決定体制の構造を意識することは、見落とされがちですがとても大事なポイントです。Cクラス・営業部長・プロダクトマネージャーなど、分かりやすい意思決定者は業界の知る人ぞ知る的なブランドや製品を日頃からリサーチしており、幅広く精通しているかもしれません。しかし、その背後には法務部門・IT部門・調達部門といった「見えにくい意思決定者」が存在します。彼らはプロジェクトの主役ではありませんが、購買の最終承認には欠かせない存在です。彼らに「どこ?聞いたことないな」と思われるのと、「ああ、なんか聞いたことあるかも」と思われるのとでは、雲泥の差があります。

このような複数の関係者に響くよう、Webサイトや営業資料では、それぞれの部門に合わせた適切なコンテンツを用意することが望ましいでしょう。例えば、

  • 法務部門には、契約条件やコンプライアンス情報を掲載
  • エンジニア部門には、技術仕様や検証データを用意
  • 調達部門には、実績や価格体系、サポート体制を明記

などが考えられます。これに加えて強力なブランド力があれば、多様な関係者に対して「信頼できる取引先である」と感じさせ、社内稟議を通すための静かな後押しとなります。B2Bでは、1件の商談が大きな取引につながるからこそ、最初に「選ばれる存在」であることが何より重要です。

 

「知られていない=選ばれない」というリスク

アメリカでは、すでに多くのB2B企業がブランド認知拡大に本格的に投資を始めています。SalesforceやQuickBooksなどは、スーパーボウルといったB2C寄りのメディア枠にも登場し、企業の信頼性やビジョンを広く発信する動きを強めています。

データでもその傾向は明らかです。アメリカのB2B企業のデジタル広告費は2024年に180億ドルを突破し、2025年には200億ドルに達する見込みです。Google広告、LinkedIn広告、動画広告などを活用し、企業の認知促進とリード獲得の両立を図る動きが広がっています。

このような動きが加速していくと、近い将来「知られていない会社」は選ばれる以前に検討すらされない、比較検討の段階で「そもそも検討対象に入らない」という事態に陥るリスクがあると言えます。すべての企業がスーパーボウルにCMを出す必要はありません。重要なのは、自社のステージに合ったブランディング戦略を設計し、一貫性のある顧客体験を構築すること、さらに常に発信を継続することです。そしてそれらの取り組みは、短期的な成果を狙うものではなく、中長期的に企業価値を高めることを目的とした活動として捉えるべきです。

 

B2Bブランディングで「選ばれる企業」へ

ブランドマネジメントとは、派手な広告や表面的なイメージ戦略ではありません。B2Bにおいては特に、あらゆる意思決定者に対して「安心して選べる企業である」という確信を与える仕組みです。アメリカ市場では、認知されていない企業がリード獲得を進めることは今後ますます難しくなっていきます。マーケティングとブランディングは「成長戦略の柱」です。営業活動やマーケティング施策を最大限に活かすためにも、ブランドの存在感を育てることが今後の競争力に直結します。

「ブランディングはB2Cだけのもの」と考える時代は終わりました。「知られていない企業は、検討のテーブルにすら乗れない」――それが今、B2B企業が直面している現実です。そしてその現実に向き合う企業から、すでに次の成長ステージに進み始めています。

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