ピザ不振とチキン成長から読み解く、アメリカ外食ビジネス動向
新しい年、新しい食習慣
年明けは、一年の中でもっとも健康志向が高まる時期です。それはアメリカでも例外ではありません。
「今年こそはダイエット」を新年の抱負に掲げる人は多く、この時期はジムに入会するとともにこれまでの食習慣を見直すきっかけとなるタイミングです。ダイエットと日々の食事は切っても切り離せない関係にあり、どのような食べ物を選ぶかは個人の健康意識を色濃く反映します。
人々の食習慣に関し、アメリカのレストラン業界では現在、大きな変化が起きています。
アメリカにおけるピザ業界の苦境
先月から今月にかけて、ニューヨーク・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルで相次いで報じられたピザ業界の苦境は、多くの人に驚きを与えました。
リサーチ会社のTechnomicによると、2024年のレストランチェーン売上高ランキングでは、ピザは6位にとどまり、1990年代の2位から後退し、現在ではコーヒーショップやメキシコ料理店の店舗数を下回っています。市場調査会社データセンシャルのデータによれば、アメリカのピザ店数は2019年にピークを迎え、その後は減少傾向に転じているとのことです。
大手ピザチェーンにおいても例外ではありません。ピザハットでは、1年以上営業している既存店の米国内売上が8四半期連続で減少しており、同社は昨年11月に売却を検討していると発表しました。また、先月にはカリフォルニア・ピザ・キッチンが3億ドル未満で売却されましたが、これは2011年に前の買い手が支払った4億7,000万ドルを大きく下回っています。

ピザが苦戦する理由:市場と消費者の変化
アメリカ外食市場におけるピザの支配的地位の低下の背景には、大きく分けて3つの要因があります。
① 競合の増加と選択肢の拡大
第一に、競合となるファストフード業態が大幅に増えたことです。ピザ店は互いに競争するだけでなく、バーガー、チキン、メキシコ料理、チャイニーズフード、タイ料理、寿司など、他のファストフード店とも価格競争を繰り広げています。
さらに、フードデリバリーアプリの普及により、アメリカの消費者はこれまで以上に幅広い料理ジャンルへ簡単にアクセスできるようになりました。カリフォルニア・ピザ・キッチンの新オーナーも「人々が今後もピザを食べ続ける」という前提には賭けているものの、成功の鍵は“定番のピザ以上の価値を提供できるかどうか”にあると述べています。
② インフレと「価格に見合う価値」への厳しい視線
第二の要因はインフレです。生活が逼迫する中で消費者の目は一段と厳しくなり、メニューの魅力と価格に見合う価値の両立が強く求められています。ピザ店向けのオンライン注文プラットフォーム「スライス」によると、ラージサイズのチーズピザの全米平均価格は約17ドルにまで上昇。5ドル前後のファストフードセットや冷凍ピザ、自炊と比べると割高に感じられる場合もあります。
一方で、こうした逆風の中でも、積極的なプロモーションを展開して成果を上げているブランドも存在します。例えばドミノ・ピザは、トッピング付きラージピザを9.99ドルで提供するキャンペーンを実施し、売上を伸ばしています。
③ 健康志向の加速と食行動の変化
第三の要因は、健康志向の高まりです。“やせ薬”とも呼ばれる食欲を抑えるGLP-1系薬剤を使用する人が増え、消費者の食に対する意識は大きく変わりつつあり、ピザにとっては逆風となっています。白い小麦粉の生地、加工肉、大量のチーズで作られることが多いピザは、こうした流れと相性が良いとは言えません。
大手チェーンPapa John’s Pizzaの幹部によると、顧客がピザを選ぶ場合でも、小さめのサイズを選び、トッピング数を減らす傾向が見られるとのことです。これは健康志向と同時に、経済的な理由も関連していると言えそうです。
急成長するレストランカテゴリーとその意味
こうした変化の中で、成長を続けるフードカテゴリーもあります。リサーチ会社のTechnomicによると、全米TOP1,500チェーンレストランにおける売上シェアは、この10年で大きく変化しました。
この10年間で最も売上シェアを伸ばしたのはチキン専門チェーンであり、その成長スピードはハンバーガー、ピザ、サンドイッチといった競合カテゴリーを上回っています。これはアメリカにおける健康志向の高まりを象徴する動きと言えるでしょう。チックフィレイ(Chick-fil-A)、レイジング・ケインズ(Raising Cane’s)、ウィングストップ(Wingstop)といったブランドに牽引され、チキンカテゴリーは2025年に米国チェーンレストラン全体売上の12%超を占めると予測されています。これは2015年の7%から大幅にアップしています。
その他にも、コーヒーカフェおよびメキシコ料理チェーンのカテゴリーも好調で、売上シェアはそれぞれ2.3%、1.6%増加しています

2026年、アメリカのレストラン業界はどうなるか
今年のレストラン業界にはどのような変化が訪れるのでしょうか?
NATIONAL RESTAURANT ASSOCIATIONによると、今後注目されるのは、日常から少し離れ、「どこか別の場所」や「別の時代」へと連れて行ってくれるような味・料理・体験だとされています。しかも、それは「高すぎない価格帯」で楽しめることが前提です。安心感やノスタルジー、そして「食による現実逃避(フレーバー・エスケーピズム)」を求める心理は、健康志向やコストパフォーマンス重視の流れと交差しています。
アメリカのレストラン業界は今、「健康・価値・体験」という三つの軸を中心に大きな転換期を迎えており、レストラン運営者にはそれらのバランスをいかに取るかが、これまで以上に求められています。ピザ業界の苦境はその象徴であり、同時に次の成長のヒントを示しているとも言えるでしょう。
注目される2026年のフードカテゴリー動向
最後に、NATIONAL RESTAURANT ASSOCIATIONが示す2026年の注目領域を紹介します。大きく以下のカテゴリーに整理されていますので、フード業界の方は参考にしてみてください。
料理(Dishes)
スマッシュバーガー
進化系インスタントヌードル
カリブ風カレー
スムージーボウル
味噌グレーズ仕立てのプロテイン(肉・魚など)
ライオンズメイン(ヤマブシタケ)マッシュルームバーガー
フィリピン風ポーク・トシーノ
中東風ザアタル・フラットブレッド
食材・フレーバー・味付け(Ingredients, Flavors, Condiments)
プロテインの追加トッピング
チリライムの甘辛フレーバー
味噌
コチュジャン
ゴーストペッパー・ハニーグレーズ
アフリカ料理(ナイジェリア、エリトリア、エチオピア、ソマリア)
ブラックライム(乾燥ライム)
スモークド・シトラス(燻製柑橘)
ドリンク(Beverages)
エナジードリンク
地元産スピリッツ
低アルコール/ノンアルコールドリンク
発酵系・腸活志向の飲料(コンブチャ、テパチェ、プレバイオティックソーダなど)
パーソナライズド・ハイドレーション
焼酎(Soju)
ムード・メンタルウェルネス系ドリンク(アダプトゲンやキノコ由来エッセンス)
CBD配合飲料
スイーツ(Desserts)
ドバイチョコレート
フリーズドライフルーツ
エスプレッソ・ソルトキャラメルソース
スパイシーペッパー入りスイーツ
進化系スモア
機能性スイーツ(プロバイオティクス、アダプトゲン配合など)
デーツ(ナツメヤシ)ベースのデザート
カオスケーキ
