アメリカ建国250周年と「ノスタルジー現象」-人々はなぜ今、懐かしさを求めるのか

末永 恵

アメリカ建国250周年と「ノスタルジー現象」-人々はなぜ今、懐かしさを求めるのか

来月7月4日はアメリカ独立記念日です。しかも今年は、建国250周年。いわゆる「America 250」です。テレビ番組、雑誌、イベント、限定グッズの数々。街中やメディアを見ていると、アメリカはワールドカップ以上に、250周年ムードのほうが盛り上がっているようにも見えます。

 

マクドナルドは「懐かしのアップルパイ」を復活

こうした一大イベントを、マーケティング活動に余念がないアメリカのメーカー各社が見逃すはずがありません。

マクドナルドは1968年以来となる揚げたてアップルパイを、6月23日より米国内において期間限定で復活させると発表。このアップルパイ、実はビッグマックと同じ1968年生まれの”同期”です。テネシー州のフランチャイジー夫妻が開発したレシピで、長方形の揚げパイをカードボードの箱に入れて提供するスタイルも当時のまま。30年以上ぶりの復活です。

バーガーキングは赤・白・青のスプリンクルをあしらったFirecracker Cookie Pieを期間限定販売中。ソニックやハーディーズも「America 250」仕様の限定メニューを展開しています。

 

Morning Consult「最も信頼されるブランド 2026」

そんな中、リサーチ会社のMorning Consultが今月「Most Trusted Brands 2026」を発表しました。3,200以上のブランドを対象に、2026年1〜5月にかけて実施した、消費者がどのブランドを信頼しているかを調査したレポートです。

総合トップ25ランキングは以下の通りです。

順位 ブランド スコア
1 Dawn Dish Soap(食器用洗剤) 60.4
2 BAND-AID 59.4
3 Google 57.4
4 Dove 57.3
4 PayPal 57.3
6 The Weather Channel 56.9
7 Heinz Ketchup 56.4
8 UPS 56.3
9 Hershey’s 56.1
9 Kleenex 56.1
11 Colgate 54.9
12 Cheerios 54.4
13 Tide Detergent 54.3
13 Mr. Clean 54.3
13 YouTube 54.3
13 Amazon 54.3
17 FedEx 54.2
17 Lysol 54.2
19 Tylenol 54.0
20 Duracell 53.9
21 Oral-B 53.7
22 Clorox 53.6
23 M&M’s 53.4
24 Doritos 53.2
25 Home Depot / Visa 53.0

 

GoogleやAmazonなどのIT企業も散見されますが、大半は食器用洗剤、バンドエイド、ケチャップのハインツ、チョコレートのハーシーズなど「派手さや新しさはないが、常に変わらず昔からある」ブランドが上位を独占しています。

 

今年の主役は「ノスタルジー」

ランキングと同時に発表された「信頼上昇幅トップ25(トラストライザー)」を見ると、今年の傾向がよく見えてきます。

順位 ブランド 上昇幅
1 Mr. Pibb(炭酸飲料) +13.7
2 Hill’s Pet Nutrition +10.6
3 Lunchables(子ども向けランチパック) +7.1
4 PetSmart +6.7
11 Cap’n Crunch(シリアル) +6.0
17 Capri Sun(子ども向け飲料) +5.8
18 Hot Wheels(ミニカー) +5.8

 

Mr. Pibb、Lunchables、Hot Wheels、Capri Sunは日本ではあまりなじみのないブランドかもしれませんが、アメリカでは子どもの頃に学校のランチボックスや地元のスーパーに並んでいた定番ブランドたちです。

Morning Consultはこのトレンドを「nostalgia over novelty(新しさより懐かしさ)」と表現し、今年の最大のキーワードとして位置づけています。経済的・政治的な不確実性が高まる中、消費者が「驚かせてくれるブランド」より「裏切らないブランド」に引き寄せられているというわけです。

 

懐かしいブランドに惹かれる理由

アメリカは、次々に新しいブランドやサービスが生まれる国というイメージがあります。実際、DTCブランド、テック企業、AIサービス、サプリメント、機能性飲料など、新しいカテゴリーの立ち上がりは非常に早い市場です。

ですが、かといって新興ブランドが簡単に定着できるわけではありません。

特に日用品・食品・ファストフードのカテゴリーは、子ども時代の記憶や感情的なつながりが醸成されやすく、既存ブランドが圧倒的に有利です。Morning Consultのデータでも、信頼の年間変動幅は典型的なブランドで1.5ポイント以下。ブランドの信頼は短期キャンペーンではなく、長期的な接触の積み重ねで作られているというわけです。

例外もあります。GapはY2Kブームへの的確な乗り方が功を奏し、今年のトラストライザー12位(+5.9ポイント)に入りました。ただしGapも”新しいブランド”ではなく、世代の集合的な記憶と紐づいた既存ブランドです。やはりノスタルジーの力が働いていると言えます。

 

ペット関連ブランドが急上昇

レポートの中でもう一つ注目の動きが、ペットカテゴリーです。Hill’s Pet Nutritionは全ブランド中2位の上昇幅(+10.6ポイント)、PetSmartも+6.7ポイントで4位。Morning Consultによると、アメリカのペット保有率は2022年の63%から2026年には68%へ上昇し、過去最高水準に達しています。

アメリカでは子どもを持たずペットと暮らすことを選ぶ人も増えており、ペット市場は今や巨大産業です。ペット関連のトレンドについては近々詳しく取り上げたいと思います。

 

AIは普及しても信頼されているとは限らない

対照的な動きを見せているのがAIカテゴリーです。普及という意味では間違いなくブレイクアウトイヤーですが、信頼という点では全カテゴリー中最低水準。主要AIブランド10社のうち、7社が前年比でネットトラストを落としました。唯一の例外はGeminiで+6ポイントの上昇を記録しています。

AIは確かに便利です。効率化にもつながりますし新しい体験も生み出しますが「信頼できるブランド」かどうかは別の話、というのが現在地と言えるでしょう。

 

ノスタルジーへの回帰が示すもの

懐かしいブランドへの支持が高まる背景には、今のアメリカの空気感があると考えられます。

政治の分断、戦争、移民問題、経済格差の拡大、そしてAI台頭への戸惑い。これらはつい最近登場した新しい問題ではありませんが、生活への閉塞感は確実に増しています。特に経済的なK字型の二極化は、中流階級の細分化を加速させており、生活が苦しくなっていると感じる人の方が多い状況です。最近は国を離れる決断をするアメリカ人も増えています。

そのような中で懐かしいブランドへの好感が上がっているという事実は、アメリカ人の複雑な心理を映し出しているように思います。国への愛着が揺らぎながらも、生まれ育った場所やものをやっぱり好きでいたい。その気持ちが、子ども時代の記憶に結びついたブランドへの支持として表れているのかもしれません。

そのような視点で見てみると、今年のAmerica 250の盛り上がりには、単なるお祝い以上の意味があるように感じます。
 


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